若年性認知症の相談窓口における初回相談の特徴

アソシエーションルール分析による相談者像の探索

Authors

小方 智広1-2,3(現), 齊藤 千晶1, 工藤 純平1,2, 加藤 ふき子1, 山口 友佑1, 鷲見 幸彦1

1. 認知症介護研究・研修大府センター

2. 名古屋大学大学院医学系研究科

3. 京都大学大学院医学研究科

背景

若年性認知症の人への支援の仕組みと大府センターの取組み

 65歳未満で発症した認知症として定義される「若年性認知症はその発症年齢が比較的若いことから、支援が多岐にわたる。そのため、本邦では若年性認知症支援コーディネーター(以下、支援Co)が若年性認知症の人への支援を調整する仕組みが整備されてきた。(厚生労働省による認知症施策についてはこちら
 都道府県や指定都市の相談窓口に配置された支援Coは、各地域において若年性認知症の人への個々の状況に応じて支援を調整する役割を担っており、若年性認知症に関する相談に対応してきた。
 認知症介護研究・研修大府センター(以下、大府センター)では、これまで、若年性認知症に係る相談実態を明らかにしてきた。相談実態としては、支援Coは主に専門職、本人の配偶者、本人からの相談に対応しており、一般的な認知症の相談と比較すると[1]、若年性認知症の相談窓口は本人からの相談が多い特徴がある[2]。そこで、本報告では、本人からの初回相談に焦点を当て、相談に至った人がどのような状況にあったか明らかにすることを目的とした。特に、各相談内容ごとの本人のプロフィールに着目し、いくつかの属性が当てはまった時に、どのような相談に繋がりやすい傾向があるか探索した

本研究の目指すところ

方法

データ

 大府センターが運用する相談記録システムにより集積されたデータのうち本人からの相談記録を用いた。システムでは、データ収集に協力した相談窓口から匿名加工化されたデータを収集している。このデータから、1)本人(認知症と診断を受けた者あるいは自らが認知症ではないかと心配している者)からの相談であり、2)支援Coへの初回相談であり、3)本人の年齢が65歳未満であった132件の相談記録を抽出した。

解析

 相談内容別の相談者像を明らかにするために、アソシエーションルール分析[3]により共起する項目とその確率を算出した。選択した変数は、A.相談者の属性である、①年齢層、②性別、③居住形態、④就労状況、⑤認知症の診断有無と、B.相談者の各相談内容(医療、日常生活、就労、経済、社会資源)である。
 解析にはaprioriアルゴリズムを用い、各ルール{条件A→条件B}に対して、Support=0.03(条件AかつBとなる確率)、Confidence=0.8(条件Aの場合に条件Bとなる確率)、Lift=1.0(ルールの起こりやすさ)を満たし、A.相談者の属性(①~⑤)のうち3つ以上が共起したときに繋がりやすい相談内容をルールとして抽出した。その他および不明を含むルールは除外し、各相談内容のみにつながるルールを抽出した。

倫理的配慮

 本研究は社会福祉法人仁至会 倫理・利益相反委員会の承認を得た。

結果

補足結果 本人のプロフィール

本人のプロフィール N = 1321
年齢
    39歳以下 25 (18.9%)
    40歳台 30 (22.7%)
    50歳台 42 (31.8%)
    60-64歳 22 (16.7%)
    不明 13 (9.8%)
性別
    男性 53 (40.2%)
    女性 61 (46.2%)
    不明 18 (13.6%)
居住形態
    同居 65 (49.2%)
    独居 32 (24.2%)
    施設入所 1 (0.8%)
    不明 34 (25.8%)
就労状況
    就労中 58 (43.9%)
    休職中 2 (1.5%)
    退職 17 (12.9%)
    働いていない 10 (7.6%)
    その他 5 (3.8%)
    不明 40 (30.3%)
認知症の診断
    診断なし 73 (55.3%)
    診断あり 26 (19.7%)
    不明 33 (25.0%)
1 n (%)

結果1 本人からの相談内容(n=132)

相談内容 回数
医療 91(68.9%)
日常生活 37(28.0%)
就労 13(9.8%)
社会資源 10(7.6%)
経済 10(7.6%)
その他 15(11.4%)

結果2 プロフィールと相談内容に関する51ルールを同定

○医療に関する相談(47ルール)

 就労状況では「就労中」、認知症の診断有無では「診断なし」が半数以上のルールに含まれていた。

補足資料:医療に関する相談 全47ルール一覧

医療以外の相談

○日常生活に関する相談(3ルール)

 ・50歳台、女性、診断あり
 ・50歳台、女性、同居、診断あり
 ・50歳台、同居、退職、診断あり

○就労に関する相談(1ルール)

 ・50歳台、男性、同居、診断あり

考察

ルールから分かる相談内容別の主要な特徴
 1)医療に関する相談は、相談時に就労している、あるいは認知症の診断がないことが特徴的である。
 2)日常生活あるいは就労に関する相談は、相談時に認知症の診断があることが特徴であり、性別によりその相談内容は変わり得る可能性がある。

医療に関する相談
 診断がない人に対する相談対応は診断確定に結びつく可能性があり、特に費用負担がなく相談できる窓口の特徴は医療機関への受診をためらっている人にとって相談しやすいことが予想される。さらに、就労している人が主な相談者層であることは、診断が確定し支援が進む中で就労に係る支援が重なっていくことが示唆される。

日常生活・就労に関する相談
 日常生活・就労に関する相談は、認知症の診断があることが特徴の一つであり、診断直後に本人が困り、周囲からの支援が必要となることが示唆される。
 同定されたルールを見ると、日常生活に関する相談は女性に特徴的であった一方で、就労に関する相談は男性に特徴的であった。これは経済活動に係る男女差が関係していることが考えられるが、特に男性にとっては有給労働が重要な役割の一つであることを示している可能性がある。

まとめ 

初回相談において、本人の相談内容は認知症の診断の有無によって異なることが示唆される

・医療に関する相談は診断がない者からの相談が特徴的である。
・日常生活と就労に関する相談は診断がある者からの相談が特徴的である。
・これらは若年性認知症の人への相談支援において注意すべき点であり、ケアの実践および施策立案を考えるうえで重要である。
・個別支援が進んでいくなかで具現化されていくニーズを探索することが今後の課題である。

参考文献

[1]
Nakano Y, Hishikawa N, Sakamoto K, Myoraku Y, Ozaki Y, Takemoto M, et al. A unique telephone support system for dementia patients and their caregivers managed in Japan (Okayama Dementia Call Center, ODCC). Neurology and Clinical Neuroscience 2018;6:100–3. https://doi.org/10.1111/ncn3.12200.
[2]
[3]
Hahsler M, Grün B, Hornik K. arules- A Computational Environment for Mining Association Rules and Frequent Item Sets. Journal of Statistical Software 2005;14. https://doi.org/10.18637/jss.v014.i15.